ファルコム(その他) 2009/10/04 Sun 見送り不要 イース7 ED後のアドルとガッシュの別れ際の話です。 【文字数:980】 本文を読む あちらこちらで人の声がする。 それは華やかな街の賑わいではなく、復興しようとする人々の力強い息づかい。 一時は瀕死状態だったアルタゴ市街も、少しずつではあったが街らしい姿を取り戻しつつある。 そんな中、ガッシュは一人港へ向かっていた。 だが、階段を下ったところで一瞬足を止める。 「……何の用だ」 後方に感じた気配に軽く舌打ちをした。 振り向いた先には、燃えるような赤い髪。 奇妙な縁だ。 まさか、このアルタゴで再会するとは思わなかった。 まさか、共に死地を潜り抜けることになろうとは。 二人の間に少しの沈黙が流れた。 様々な雑音の中、この場所だけが切り取られてしまったかのように。 ここまで走ってきたのか、アドルの呼吸は少し乱れていた。 「俺に構ってないでさっさと行けよ」 ガッシュがそう吐き捨てると、赤毛の青年は困ったように笑った。 今の彼は武器も防具も身に付けていない。 彼と相棒のドギがアルタゴの復興に尽力していることは、もちろんガッシュも知っていた。 すると、アドルは「もうここを立つのか?」と尋ねてきた。 「ああ、これ以上あいつにこき使われるのはごめんだからな」 ガッシュの言いぐさにアドルは苦笑する。 だが、どこか寂しげな様子で黒髪の青年を見つめていた。 二人とも口達者な方ではないから、スムーズな別れのやりとりなど出来るはずもない。 「あ~、だから、さっさと行けって言ってるだろ!」 ガッシュは片手で黒髪をかきむしりながら、声を荒げた。 こんな所で悠長に相手をするつもりはなかったのに……と思う。 けれどもこのお人好しな青年のことだ、振り払おうとしても出航間際まで付いてきそうな気がする。 案の定、アドルは「見送りたい」と言ってきた。 ハッキリ言って柄じゃない。 ガッシュは脱力したくなったが、不思議なことにまったく嫌なわけではなかった。 それどころか、少し嬉しい気もしてしまう。 だがそんなことはおくびにも出さず、彼はアドルに背を向けた。 「チッ、勝手にしろ」 顰めっ面で歩き出したガッシュの後ろ姿に、アドルはパッと目を輝かせた。 そして短い別れの時間を惜しむかのように、やけに足早な彼を追いかけるのだった。 2009.10.4 #イース 畳む
イース7
ED後のアドルとガッシュの別れ際の話です。
【文字数:980】
あちらこちらで人の声がする。
それは華やかな街の賑わいではなく、復興しようとする人々の力強い息づかい。
一時は瀕死状態だったアルタゴ市街も、少しずつではあったが街らしい姿を取り戻しつつある。
そんな中、ガッシュは一人港へ向かっていた。
だが、階段を下ったところで一瞬足を止める。
「……何の用だ」
後方に感じた気配に軽く舌打ちをした。
振り向いた先には、燃えるような赤い髪。
奇妙な縁だ。
まさか、このアルタゴで再会するとは思わなかった。
まさか、共に死地を潜り抜けることになろうとは。
二人の間に少しの沈黙が流れた。
様々な雑音の中、この場所だけが切り取られてしまったかのように。
ここまで走ってきたのか、アドルの呼吸は少し乱れていた。
「俺に構ってないでさっさと行けよ」
ガッシュがそう吐き捨てると、赤毛の青年は困ったように笑った。
今の彼は武器も防具も身に付けていない。
彼と相棒のドギがアルタゴの復興に尽力していることは、もちろんガッシュも知っていた。
すると、アドルは「もうここを立つのか?」と尋ねてきた。
「ああ、これ以上あいつにこき使われるのはごめんだからな」
ガッシュの言いぐさにアドルは苦笑する。
だが、どこか寂しげな様子で黒髪の青年を見つめていた。
二人とも口達者な方ではないから、スムーズな別れのやりとりなど出来るはずもない。
「あ~、だから、さっさと行けって言ってるだろ!」
ガッシュは片手で黒髪をかきむしりながら、声を荒げた。
こんな所で悠長に相手をするつもりはなかったのに……と思う。
けれどもこのお人好しな青年のことだ、振り払おうとしても出航間際まで付いてきそうな気がする。
案の定、アドルは「見送りたい」と言ってきた。
ハッキリ言って柄じゃない。
ガッシュは脱力したくなったが、不思議なことにまったく嫌なわけではなかった。
それどころか、少し嬉しい気もしてしまう。
だがそんなことはおくびにも出さず、彼はアドルに背を向けた。
「チッ、勝手にしろ」
顰めっ面で歩き出したガッシュの後ろ姿に、アドルはパッと目を輝かせた。
そして短い別れの時間を惜しむかのように、やけに足早な彼を追いかけるのだった。
2009.10.4
#イース 畳む